プルキオ王国のお姫様

絵本に出てくるヒーローとして有名な大盗賊サンク・リヴァスゲート。
彼の子孫サモン・リヴァスゲート(主人公)は、大盗賊のファンであるお姫様(ヒロイン)になつかれて共に行動するようになり…ある日、昔の出来事を思い出す。



大昔に活躍した俺の先祖……大盗賊サンク・リヴァスゲート。

彼の墓はプルキオ王都の孤児院に建てられている。

盗賊なのに何故孤児院なのかと言うと…サンクはトレジャーハンターを本業としている義賊だったからだ。彼の冒険譚は絵本になっていて、子供にはヒーロー扱いされている。

「…だからってなんでそんな人気なんだか」

「カッコいいからに決まってるじゃないですか!」

「っ!?」

気まぐれに来たサンクの墓の前でひとり言を呟いたら、背後から言葉が返ってきたので驚いて振り返る。

「こんにちは、あなたもお墓参りですか?」

「あ、はい」

そこにいたのは、肩に変な飾りを付けてる綺麗でかわいい女の子だった……俺と歳が近そうな。

「私もずっと望んでいましたが…今日初めて来ることが出来ました、お忍びで」

「そうなんですか………お忍び?」

「自己紹介がまだでしたね、私は『シウリア・トライアクル・プルキオ』と申します」

「……その名前って…」

「はい!この国の姫で、大盗賊サンクのファンの一人です」

自分の国の姫が……自分の先祖のファン?

「こちらのミニドラゴンは、お友達のグレンです!」

「よおニンゲン!ヨロシクな!」

しかも飾りだと思ってた肩の変なものは、生きてるドラゴンだった…なんなんだこの姫様は。

「ヒメが名乗ったんだからオマエも名乗れよ~!」

「え?えっと……俺は…」



プルキオ王国の姫様と知り合ってからというもの、そのシウリア姫はちょくちょく俺の前に現れるようになった。

「サモンさん!!今日こそはOKしてもらいますよ!」

「お断りします」

「駄目です、断ることをお断りします!」

「俺に拒否権は無しですか」

大盗賊サンクのファンのシウリア姫は、俺がサンクの子孫であると知った瞬間…無茶な要求をしてきた。

「いいじゃないですか!宝探しに行きましょうよー!」

「何かあった時に責任持てませんから無理です」

「私が重荷でしたら従者も同伴で出直します!」

「その従者と宝探しに行けばいいのでは?」


城の倉庫で偶然宝の地図を見つけたので一緒に宝探しをしてほしいと頼まれたのだが……俺はたいして強くない為、安全面が保証できない。

「サモンさんと一緒に行きたいんですよぉ……」

「か…悲しそうな顔で言っても駄目です、俺にはギルドの仕事もあるし」

不覚にも今ちょっとかわいいって思ってしまった。

「では冒険者ギルドに依頼という形で!」

「かまいませんけど、その場合は他の者がつくと思いますよ?」

「えぇ!!」

お姫様の護衛をしながら宝探しなんて…そんな大きな仕事を俺が任せてもらえるはずがない。

「魔物退治の依頼だってそんなに回ってきませんからね…俺の評価なんてそんなものです」

シウリア姫は俺に何かを期待しているようだが、あいにく俺は御先祖のような強さも才能も無い。

「今日の仕事だって……その…」

「はい?」

「…近所の子供達のお世話です」

大盗賊サンクの子孫が子守りとか、ガッカリしたんじゃないか?

「お手伝いさせてください!私もお子さん達と遊びたいです!!」

ガッカリどころか目を輝かせていた。




「シアおねえちゃん絵本読んで!」

「もちろんです!私が常備している『大盗賊サンクシリーズ』をいくらでも読みましょう!」

ミニドラゴンと友達で、子供好きで冒険好きで、大盗賊のファン……変わったお姫様だ。

「いつもありがとうサモンくん、紅茶ここに置いとくね」

「あ、どうも…」

「ねえねえサモンにいちゃん、あのおねえちゃんってサモンにいちゃんの彼女?」

「ぶはっ!?」

突拍子もない発言に思わずおばちゃんが淹れてくれた紅茶を噴き出した…なんてませてるんだ最近の子供は…。

「サモンにいちゃんきたなーい!」

「大人をからかうな!」

「アハハ!にっげろ~!!」

まったく……まあ俺も、大人って言えるほど人間ができていないけどさ。

幼少期に親から色々な技術を教わってる癖に、トレジャーハンターになる勇気は無いし…盗賊にスカウトされるのも嫌で目立たないように生きてるんだから。


「ふぅ、みんなお昼寝しちゃったので休憩頂きますね…」

「あ、シウリア姫紅茶を…」

「『シウリア姫』は禁止ですよ、サモンさん」

「………シアさん、紅茶どうぞ」

「ありがとうございます!」

あくまでも俺のところに顔を出すのはお忍びなので、周りの人にバレないように呼んでくれと言われているんだった。

「それとサモンさん、できれば敬語も禁止にしたいのですが…」

「へ?…いくらなんでもそれは出来ませんって」

「いいえお願いしますっ!もし姫だとバレてしまったら大変ですから!!」

「わ、わかりまっ…わかったから!詰め寄らないで、ほしいな…」

「す!すみません…」


内緒話のうえに眠っている子供達を起こさないように小声で話しているので、だいぶ至近距離だった……なんか心臓に悪い。

「…サモンさんは、よくこちらへいらっしゃるのですか?」

「あー…うん。こことか、この前の孤児院とか……子守りの仕事が多いから」

あんたは敬語なのかって言葉はギリギリ飲み込んだ。

「小さい頃からこの辺で遊んでたから、街の人も俺を呼びやすいんじゃないかな」

「きっとサモンさんを信頼しているからこそですね」

「そんな大袈裟な……一応手先は器用だから、窓の修理とかドアノブの補修とかもついでに頼もうってだけだよ」

「…鍵の掛かった扉を開けることもできますか?」

お、さすがサンクのファン。大盗賊技術に関して興味があるんだな。

「鍵を外す方法については詳しく言えないけど、大抵の扉は開けられるよ」

「それは……幼い頃からですか?」

「え?」

「あ、いえ!なんでもありません!私もう帰りますね!」

シウリア姫は慌てて帰り支度を始めた…いきなりどうしたんだ?

「で、では失礼します!」

あんまり急いで出ていくから『送ってく』って言う暇も無かったな。

………いや何送っていこうとしてんだよ。

あのミニドラゴンが迎えに来るだろうし、姫様用のお忍びルートで帰るんだから邪魔になるだろ落ち着け俺。


「……ん?これは」

さっきまでシウリア姫が座っていた場所に視線を戻すと、絵本が一冊落ちていた。大盗賊サンクシリーズの絵本…姫が忘れていったようだ。

「タイトルは『小さな姫のかくれんぼ』…懐かしいな」

俺も子供の頃に読んだことがある……城でメイド達とかくれんぼをしていた幼い姫が、鍵が壊れていた倉庫に隠れてそのまま出られなくなるんだ。そして泣きじゃくっているところに、大盗賊サンクが現れて助け出すというストーリー。

そういえば俺も昔、一緒にかくれんぼをしていた友達を助けたことがあったな……いや、知らない子だったか…その日だけ遊びに加わった女の子。

その子は雑貨屋の古い倉庫に隠れて、何も知らない大人が誤って鍵を掛けてしまった。

かくれんぼの鬼だった俺は女の子の泣いてる声に気付き、得意な鍵外しで倉庫の扉を開けた。

『みーっつけた!』

『…っ!』

顔には涙のあとがあって目の周りが腫れてて、髪はホコリまみれだったけど…。




「けど………かわいい子だったよな」

そう、シウリア姫みたいな可愛い子……ってまた何を考えてんだよ俺は。















「……グレンが言った通りに絵本を置いてきましたけど、サモンさん思い出してくれるでしょうか?」

「それはアイツ次第だな。でもよ、思い出とか関係無しに…アイツ多分ヒメに気があるゼ?」

「っ!!なな、何を言ってるんですか!?」

「見てりゃあワカルもん。良かったな両想いで!試しにコクってみたら?」

「こっコクっ!…からかわないで下さい!!」







あの時の女の子がシウリア姫だと……俺が知るのはもう少し先のことだった。