俺が欠片の勇者の力を受け継いだのは10年前。
当時まだガキだった俺は旅なんてできなくて、時空宮殿で修行しながら暮らしてた。
『欠片の勇者グランド…あなたはもう1人で生きて行けます。ここで力をつけすぎると魔族に悟られてしまうでしょう』
そして5年前、簡単に言うと宮殿が狙われると困るから追い出された。
用がある時は帰ることもあるが…欠片の勇者はなるべく同じ場所にとどまらないほうがいいんだ。
『時空のかけらにも意思があります。 あなたが全力で護れば、こたえてくれますよ』
かけらの力を使って良いのは基本かけらと自分を護る時だけ。
『かけらを持つあなたの旅は時空間のバランスを保つことにつながるのです』
「……つまり【厄介払いを押し付けられた放浪者】それが欠片の勇者だ」
「魔物退治とかしないで、ただ旅してる弱っちい勇者なんだろ?」
「弱くねえよっ!ふざけんなクソガキ!!」
アージェントとかいう堕天使のガキは、俺の前に現れては『時空のかけらをよこせ』としつこくせびってくる。
どうにか諦めさせようと、事の重大さを説明しようと試みたが…。
「うるさいなぁー。なんでそんなのオイラに聞かせたんだ?」
「元・天使なら時空間のバランスが壊れたらどうなるか知ってんだろ?」
「オイラ勉強サボってたから知らなーい」
「馬鹿っぽいやつだと思っていたがここまでとは…バランスが壊れると時が乱れるんだよ!違う時代や次元が混ざりまくって意味不明な世界になる!」
「へーそれはそれで面白そう!」
「お前が堕天した理由がよくわかった。俺が神でも羽もぎたくなるわ」
「でもさ、アンタがかけらを持って旅してれば問題ないんだろう?かけらをくれなくてもいいからさぁ…ちょっと使わせて?」
「断る」
「ケチ!」
「ケチで結構」
「頑固者!いじわる野郎!邪道勇者!なんかカッコつけてる厨二病!!」
「なんだよ厨二病って?」
「知らないの?異世界の勉強が足りないなぁ~」
「炎よ 燃やせ」
「ぎゃあああああぁぁぁっっ!!!!!」
攻撃魔法を唱えてやったがギリギリ避けられた……チッ。
「あっぶないなぁ!!っつか炎の魔法使うなら普通に『フレイム』って言えばいいだろ!」
「そんなことに文句つけるんじゃねえよ」
「だってアンタそういうところが厨二病なんだぞ!?なーにが『炎よ 燃やせ』だよ!!」
「俺の故郷ではこれが普通だ……空間よ 歪め」
「あぁぁ!!転移魔法で逃げやがったぁぁぁ!!!」
適当に旅しているだけでよかった俺の生活は、まだまだ元に戻ることはないようだ。